生物多様性クレジットの現在地と展望
生物多様性クレジットとは
生物多様性クレジットは、森林の保全や再生といった活動による「生物多様性の回復効果」を数値化し、取引可能な形にしたものです。当初は開発行為に伴う環境負荷を相殺する「オフセット」の手段として議論されてきましたが、近年ではより積極的に、自然資本の回復(ネイチャーポジティブ)への資金循環を生み出すツールとして期待されています。
カーボンクレジットとの決定的な違い
先行するカーボンクレジット市場と比較されることが多いですが、両者には大きな違いがあります。温室効果ガスは地球上のどこで削減しても効果が同じ(均質性)であるのに対し、生物多様性は地域固有の生態系に依存するため、場所ごとの代替性が低い(非均質性)という特徴があります。
そのため、単なる排出権取引のような活発な流通市場を目指すのではなく、特定の地域における具体的な保全活動への貢献を証明する手段としての活用が中心になると考えられます。
市場の現状と課題
2025年現在、オーストラリアなどを筆頭に世界各地でパイロットプロジェクトが動いています。一般的には「面積 × 時間 × 生態系の質」といった指標でクレジットが発行されますが、この「生態系の質」をどう客観的かつ科学的に評価するかという点が、依然として大きな課題です。
また、プロジェクトの永続性担保や、グリーンウォッシュ(見せかけの環境配慮)を防ぐためのガバナンス体制の構築も急務となっています。
企業・金融機関に求められる視点
TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の枠組みにおいても、企業は自社のバリューチェーンが自然資本に与える影響を評価・管理することが求められています。生物多様性クレジットは、自社努力だけでは低減しきれないリスクへの対応や、積極的な環境貢献を示す有効な選択肢の一つです。
金融機関にとっても、投融資先の自然資本リスクを管理し、持続可能な経済活動を支えるための新たなファイナンス手法として、この分野への理解と関与を深めることが不可欠になってきています。