生態系サービスとは?ビジネスにおける重要性と分類

生態系サービス(Ecosystem Services)とは

生態系サービスとは、生物多様性を基盤とする生態系から人類が得る利益のことです。 私たちの社会や経済活動は、水や食料の供給、気候の安定、災害の防止など、多様な自然の恵みに依存しています。 近年、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)などの枠組みにおいて、企業は自社の事業が生態系サービスにどのように依存し、また影響を与えているかを評価・開示することが求められています。

生態系サービスの4つの分類

国連の「ミレニアム生態系評価(MA)」や「生態系と生物多様性の経済学(TEEB)」では、生態系サービスを以下の4つに分類しています。

1. 供給サービス(Provisioning Services)

生態系から得られる物質的な恵みです。

  • 食料(農作物、魚介類、家畜など)
  • 淡水(飲料水、農業用水、工業用水)
  • 原材料(木材、繊維、燃料、医薬品の原料)
企業のサプライチェーンにとって最も直接的な関わりがあるサービスと言えます。

2. 調整サービス(Regulating Services)

生態系のプロセスによって環境が制御されることで得られる恵みです。

  • 気候調整(森林によるCO2吸収、気温の緩和)
  • 水量・水質の浄化(湿地によるろ過機能、水源涵養)
  • 自然災害の緩和(マングローブやサンゴ礁による高潮被害の軽減)
  • 病害虫の抑制
気候変動対策や防災の観点から、その価値が再評価されています。

3. 文化的サービス(Cultural Services)

生態系から得られる非物質的な恵みです。

  • レクリエーション・観光(エコツーリズム)
  • 精神的・宗教的価値(信仰の対象としての自然)
  • 美的価値(景観)
  • 教育・研究の場
観光業や地域ブランディングにおいて重要な要素となります。

4. 基盤サービス / 生息・生育地サービス(Supporting / Habitat Services)

他の3つのサービスが提供されるための基礎となる機能です。

  • 栄養塩の循環
  • 土壌形成
  • 光合成(一次生産)
  • 種の生息・生育地の提供
これらは長期的な視点で維持される必要があり、すべてのサービスの根幹をなすものです。

シナジーとトレードオフ

これらのサービスは独立して存在するのではなく、相互に関連しています。 あるサービスの利用を最大化しようとすると、他のサービスが損なわれる「トレードオフ」が発生することがあります。 例えば、木材生産(供給サービス)のために森林を過剰に伐採すれば、土壌保持やCO2吸収(調整サービス)が低下する可能性があります。

一方で、都市の緑化は、ヒートアイランド現象の緩和(調整サービス)と住民の憩いの場(文化的サービス)を同時に提供する「シナジー」を生み出します。 企業活動においては、こうした関係性を理解し、持続可能な利用を目指すことが不可欠です。

ビジネスへの示唆

自然資本への依存度が高い企業ほど、生態系サービスの劣化は直接的な経営リスクとなります。 逆に、生態系サービスの保全・回復に貢献することは、持続可能な事業基盤の確保だけでなく、新たなビジネス機会や企業価値の向上につながります。 JUOでは、衛星データやAIを活用し、これらの目に見えにくい生態系サービスを定量的に評価・可視化する技術開発を行っています。